入院中のささやかな楽しみ

 色々な事を乗り越えていくうちに食事等も一応おかずに白米といった正常な食事も摂れるようになった。そうなると色々それに対してもろもろの欲望が出てくる。
 俗に言う「味付けが薄い」のである。確かにここの食事は母が認める程マズかった。
 なので、ご飯の上に海苔やなめたけの佃煮をのせて、焼き海苔や味海苔等でおかずと一緒に巻いて食べる等をしたり色々工夫してマズさをゴマカすようにしていた。

 元はと言えば、おばが小女子の佃煮を持参し、それがことのほか美味しくてハマってしまい、それからというもの、売店にオムツやリハビリパンツを買いに行くついでに佃煮を買い、小瓶に始まり、挙句には大瓶にまで及び、しまいには2〜3日で一瓶をきれいにすっかり空っぽにしてしまったので、看護婦に、「塩分の摂り過ぎだからダメ!」と言われ食べかけのまま瓶ごと没収されてしまった。

 それから何度頼んでも食卓に海苔の佃煮が上る事は無くなり、ある日、ふとした時にロッカーを開けてみたらあったので、一応そこにキープしつつ転院までそのロッカーの海苔を少しずつ食べ続けた。

 食べ物ばかりの話になるが、売店の横に軽食が食べられる喫茶店のような店があり、たまに母やおばが昼食や夕食間際の時間に来たりすると、その回の食事を断って、私と一緒によくその店にパスタとアイスコーヒーを食べに行ったりしたものである。

 食べ物以外ではテレビである。
 よく売店にオムツやリハビリパンツを買いに行くついでに「テレビガイド」を買い、番組のチェックをしていたものである。

 ある日、消灯後にどうしても見たい番組があり、イヤホンで出来るだけ隣のベッドとの間のカーテンを閉めてじっとして見ていると、隣のベッドの方から、「ちょっと、眩しくてよく眠れないのよねぇ、もう消灯時間過ぎてるのに、どうしても見たいものなの?」と聞かれ、「ええ、はい、ちょっとどうしても勉強に必要な番組なので、すみません、すぐ消しますから。」と言って上手く逃れたものの、しまいには、「あぁ、もう我慢出来ないから消してくれる?」と言われてしまい、その日はおとなしく眠った。

 その場はそれで済んだと思っていたら、次の日、担当医の先生に呼び出され、「桧谷さん、今回のお話の内容はおわかりだと思いますが、桧谷さんがされていた事で苦情が我々の元に来ているのですよ、内容はおわかりですね。お気持ちはわかりますが、病棟には桧谷さんだけでなく、沢山の人がいらっしゃるのですから、皆が快く過ごせるようにご協力頂かないと困ります。」と言われてしまい、いかにも隣のベッドの人の告げ口であると確信された。

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